「一億総批評家と5人の日本人」
2004.7.10

○ 暴風雨の中、延6,000人が集う

アメリカ、アイルランド、エスキモー、ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ、そして日本のアイヌなど、十数ヶ国の国と地域を代表する先住民の皆様が一同に会しての「世界平和を祈る地球感謝の日」は、海外及び全国から、この趣旨に賛同する三日間で約6,000人の参加者が集い、台風六号の暴風雨に見舞われながら、無事に全日程の行事、セレモニーを予定通り開催して大成功裡に終了しました。
 開催に向け、後援をいただいた静岡県、富士宮市をはじめ、お世話になった団体、個人、ボランティアの方々に、この紙面をお借りして心より御礼を申し上げます。と同時に、この先住民大会(WPPD)が、なぜ富士山の聖地で行われたのか、そして何をもたらしたのか、その意義と成果について、報告させていただきます。

○ 前夜チャリティライブの成功

WPPDの開催前日の6月18日(金)、午後六時より、富士宮市民文化会館大ホールにおいて行われた「前夜祭チャリティライブ」はほぼ満員に近い約800人の市民が出席して盛大に開催されました。富士山火焔太鼓の熱演で幕が上がり、次々と各国先住民の皆様のユニークな歌と踊りが披露されました。
 もとより、先住民の皆さんの音楽は、見せるためのショーではなく、「母なる大地・大自然」に対し、「感謝し讃える儀式」であります。「音楽に国境はない」と言いますが、正に素朴でシンプルなリズムと踊りは、聴く者、見る者の魂に感動を与えていました。
 おそらく、もう二度と見ることはないと思われる最初で最後の「先住民の歌と踊りの競演」に寄せられた協賛金2000円のチケット代は、必要経費を除き残金を「WPPD2004JAPAN実行委員会」に全額寄付することにしております。

○ 森の中のストーリーテリング

いよいよ本番の6月19日(土)、午後1時よりの開会セレモニーに先がけ、野外活動センターキャンプサイトにおいて、午前10時よりストーリーテリングがスタートしました。
 先住民に伝わる昔話や言い伝えを自然の林の中で、くるま座になって通訳を通して語りべから聞く話は新鮮で興味深いものでした。地元の語りべとしては、上野に在住の木村久美子さんによる「鶴の恩返し」他三作。聴き手も参加する形で進められ大好評でした。
 このストーリーテリングは一度に数ヶ所で行われ、参加者はプログラムを見て、自分の関心と興味のある「テーマと語りべ」を選択して参加します。どの会場も盛況で人垣でいっぱいでした。
 また講話として、浅間大社の渡辺宮司に「富士山信仰とその歴史」、社会教育指導者の渡井正二先生に「富士山にまつわる伝承」について話して頂き、受講者は日本人の心のふるさとである富士山に対する憧れと畏敬の念を新たにしていました。

○ 開会セレモニーとシンポジウム

午前中、姿を見せていた富士山も午後には雲に隠れてしまいましたが、その方向に祈りを捧げ、京都造形芸術大教授の鎌田東二先生の司会のもと、午後1時過ぎに開会セレモニー並びに第1部のシンポジウムが始まりました。
 まず、開会のスピーチをこの地球感謝の日の提唱者であり、北米先住民の精神的指導者であるアーボル・ルッキングホース氏からWPPDの趣旨と今日までの経過、そしてこの運動のこれからの方向性が示されました。
 次に、各国と民族の代表者がスピーチを行いました。この開会セレモニーは朝霧野外活動センターの多目的広場で行われ、約2,000人の参加者は、ゆったりと芝生に座りながら、熱い視線で見つめ聞き入っていました。
 その後、小室富士宮市長の「歓迎のことば」があり、参加者はこの素晴らしい会場を提供してくれたことに心から感謝していました。
 続いて、午後2時30分よりシンポジウムの第2部「先住民と日本の古層文化」、6月20日(日)に第3部、第4部「先住民からのメッセージ」がそれぞれ行われ、その合間に「先住民の歌と踊り」の交流が盛り上がりました。

○ 馬と人による祈りのウォーク

ネイティブアメリカンにとって、大地を踏みしめて歩くことは、母なる地球、父なる空に祈ることを意味しているといいます。また、馬は聖なる動物であり、馬での行進も祈りの儀式であるとのことです。
 6月20日(日)、午後8時より浅間大社仮殿に参拝し、約200人が安全祈願した後、午前9時スタートして山宮浅間神社に向かいました。山宮においての参拝は、御鎮座1200年祭を祈願し、富士山に遥拝するためです。北山小学校で昼食のため休憩し、白糸の滝を経由して人穴の前で富士講の祈りを捧げ、ここで馬21頭と参加者300人が合流して午後5時、馬と人の行進が勇壮に出発しました。
 選び抜かれた5頭の馬にアーボル・ルッキングホース氏を先頭にネイティブ・アメリカンの人たちが乗り、残りの16頭はこの趣旨に賛同した牧場主など馬持ちのボランティア参加の人々でした。
 この中には山梨、神奈川両県からも馳せ参じてくれた方々もあり、本当に有難いことで感激しました。
 夕闇迫る午後6時、約1,000人の輪が待つ霧につつまれた幻想的な朝霧アリーナに到着し、静かにそのサークルの中にとけ込んで行きました。馬と人が一体となった感動の一瞬でありました。

○ 暴風雨の中で貫いた平和の祈り

WPPDの近づく一週間くらい前からテレビの天気予報を祈る思いで見ていましたが、その願いも空しく、台風六号の発生という最悪の状態となってしまいました。しかも時を合わせたように最も神聖なセレモニーである「地球感謝の日」に日本列島へ上陸するなど、一時は運が悪いとしか言いようがありませんでした。
 しかし、結論から言えば決してそうではなく、正に自然のもたらす結果であったのです。
 6月21日(月)、午前8時に参加者約3,000人が集合して手をつなぎ、大きなサークルを作り、セレモニーを迎えました。午前9時、馬に乗った先住民がその輪の中に入り、沖縄の人たち(南の民族)による唄と舞によって儀式が始まり、アイヌの人たち(北の民族)により火が灯されました。
 アーボル・ルッキングホース氏のパイプ・セレモニーが終了後、参加者一人ひとりが順番に地球に感謝し世界平和の祈りを捧げ、その間、各先住民の伝統的な音楽や踊りが奉納されました。
 儀式は、ネイティブ・アメリカン「ラコタ族」に伝わる伝統を中心に行われ、それに各国の先住民の皆さんも参加した総合的なものでした。先住民の皆さんに共通している思想は、「母なる大地」自然を神と崇めている点にあります。日本で言えば、山や川、森や木、自然界のすべてに精霊が宿るという「神道」に近い考え方であると思われます。
 天候は台風の影響で、不幸中の幸いとでも言うのでしょうか、午前中は小雨であったため予定通り決行することができたのですが、午後からは強い風が吹き荒れ、あの状態ではとても強行することはできなかったと思われます。
 驚いたことは、あの暴雨風雨の中でも、ほとんどの参加者が帰らず、約3,600人にふくれ上がった三重の輪が一糸乱れず、整然と行われていたことです。
 これは参加者全員が「世界平和を祈る」という目的を持って参加していることに他ならず、自然崇拝の共通した生き方を目指していると言えると思います。
 ボーイスカウトの三つの誓いの初めに「神と国とに誠を尽くし掟を守ります」とありますが、信教は自由であるが信仰心=誇りを持ちなさい、と指導しています。
 今、日本人の大半が、自由をはきちがえて、誇りを放棄していないでしょうか。
 まず、先住民の人たちのように、自分たちの先祖を祀り、先人の生きざまに学ぶことこそ大切にしたいものです。
 大地に感謝し、人間も自然の一部であって、生かされているという謙虚な心を取り戻さない限り、地球環境も人間社会の復元もないことを知るべきです。

○ 新しい形の市民平和運動

 今回のWPPDの開催で、最も参考になり学ぶことは、まったく新しい形の市民平和運動であるということです。
 主催団体もなく、国や機関の援助もなく、この趣旨に賛同する一人ひとりのカンパによって、約2,000万円の協賛金を集めて、先住民の招聘者の旅費と滞在費を捻出したのでした。従って、企画、運営に係る経費は必要最小限で、すべてがボランティアによって成り立っていて、頭の下がる思いです。もちろん私たち富士山実行委員会も準備の約半年間、すべてカンパとボランティアで活動してきました。
 とかく今までの平和運動は、労働組合や政党が中心となって市民を巻き込んで進めてきた感があります。従って伴すれば、政党や団体のエゴや利害で、その運動が左右されてきました。これに比べて、今回の運動はまったく一人ひとりの個人の意志によって成り立っています。
参加者のほとんどは20代、30代で、中には子供連れの家族での参加も見られました。この若い人たちが、将来に大きな不安を持っているのです。
 科学技術があまりにも進歩し、人間の生活を豊かにするはずの科学技術が、今や一人歩きして人々の生活を脅かしているのです。
 一般の皆様から見て、今回のWPPDは何か難しそうだなと感じた方もあったかもしれませんが、参加者の若者達は、みんな真面目でおとなしく素直で、好感の持てる仲間でした。
 このWPPDが、今回限りのセレモニーで終わっていくのか、それとも崇高な目的を達成するための運動体に発展していくのかは解りませんが、温かく見守っていきたいと思っております。

○ 朝霧高原を国際交流のメッカに

最後に、何故このWPPDが富士山麓の朝霧高原で開催されたかを考えてみたいと思います。それは、外国人から見た富士山は正に「聖地であり憧れの地」であります。
 かつて、世界ジャンボリーの開催された実績などを考えると、世界的規模の国際交流やイベントを誘致する最高の景観と立地条件を備えています。      富士山は平和のシンボルであり、特に朝霧アリーナは市民共有の財産であります。さらに、国際交流のメッカとして有効活用をすべきであると考えます。
 それには、どうしても次の三点についてクリアしなければならない課題があると思われます。

(1) 市の誘客ビジョンと積極的な支援
この支援とは補助金などの財政的な援助ではなく、むしろ協力体制が必要です。例えば、国際的な行事ともなれば2〜3年の準備期間が必要となり、少なくとも一年前に会場の手続きが完了しなくては安心して取り組むことはできません。それには、富士宮市の富士山文化を生かした国際交流や観光交流の誘客ビジョンが必要です。その行事やイベントの目的によっては、各課・各団体に関連が出てまいります。国体の経験を生かし、関係各課のネットワークを速やかに図れる組織作りが必要です。

(2) 公共輸送のネットワーク・交通アクセスの確立 
大きな大会になればなる程、公共輸送機関の充実が必要です。いつも苦労しますのは、新幹線を利用しての個人参加者への対応です。新富士からのバスの本数が極端に少なく、しかも朝霧アリーナのバス停はなく、サークルK前の朝霧高原バス停はあっても1日1〜2本しか停車しないのです。これは、「玉子が先か、ニワトリが先か」の議論になってしまいますが、それだけ魅力はあっても、公共バスを使ってのスポットになっていないことを示していると思います。それには、常日頃の利用の促進を図り、小グループ用の観光タクシー(ライトバン等)を整備したいものです。

(3) 朝霧アリーナ周辺に1,000台規模の駐車場が必要 
今回のWPPDも過去三回行った朝霧ジャム(音楽祭)も3,000台の駐車場(北山工業団地やグリーンパーク)からバスによるピストン輸送によって何とか対応しているのです。これでは参加者の時間的、経済的な負担が重く、いつも申し訳なく思っていますが、現状ではどうにもならないのです。これは、行政側だけで整備するのではなく、周辺の民間観光施設の理解を得て、協働して行くことが大切です。

以上WPPDの趣旨の報告と、富士山麓の有効活用への三つの課題の提案とさせていただきました。