「規制緩和はだれのもの」
2004.6.1

 現在の日本の社会は、政治・経済・教育等すべての分野で改革が迫られています。
これは、戦後60年近い長きに渡ってつくられて来たシステムが制度疲労を起こし、その機能を果たし得なくなったからだ、その為に規制緩和が必要だと説明されて来ました。
 本当にそうでしょうか。私にはそうばかりとは言えない、と思うのです。

 たしかに、終身雇用制や年功序列等は日本だけのもので、欧米の先進国では類例が無いと良く言われます。
 一生懸命働いて会社の為に貢献する事も、先輩を敬うしきたりも、古いかもしれませんが、それが日本の風土であって、それでうまくいくならばそれで良いのではないでしょうか。
 テレビに出る著名な評論家たちが、日本は自由主義の顔をした社会主義の国だ、もっと規制緩和して経済を活性化させ、グローバルな経済にしなければならない、とよく発言していますが、ちょっとアメリカかぶれではないかと私は思ってしまいます。
 なぜなら、規制緩和をして経済が活性化したという例は、一部を除き、むしろ混迷しているのが実態かなと感じるからです。
 この規制緩和という自由競争により、結果として弱肉強食となって、資本が大きな方が必ず勝つという、勝ち組と負け組をはっきり生み出していると思われます。
 このまま進んでしまうと、私たちの身近にあった魚屋さん、薬屋さん、肉屋さん、米屋さん、酒屋さん等、屋のつくお店は、よほど個性的な魅力あるお店でないと、ほとんど街から消えてしまうのではないでしょうか。
 たしかに、大型ショッピングセンターはとても便利ですし、アメニティ(遊びの空間)のある、ビッグな都会的なムードの溢れる大店舗の方を、選択する消費者の多いことを私も否定しません。
 しかし、長い目で見た場合、規制緩和という言葉が一人歩きして、地域社会を支えている商店や中小企業などの自営者がどんどん減少して、町が寂れて行く事は、結果として、自由社会の発展を阻害する事にならないでしょうか。
 平成11年、大店舗調整法(一種の規制)が大規模立地法に変わった時点で、勝負が決まったも同然と感じました。
 また、定期バスが規制緩和して、許可制から届出制になりました。このことは、特定のバス会社に限定せず、誰でも参入出来るようになったのです。
 しかし、結果はどうなったかと言いますと、説明するまでもありませんが、不採算(赤字)の路線はカットされ、弱い者(子供やお年寄り)の足を奪うことになりました。果たして、これが住民の為の規制緩和なのでしょうか。

 米ソの冷戦が終焉し、社会主義が一部を除き崩壊した事により、自由主義が社会主義に勝ったという驕りが、世界の政治・経済において、アメリカの大国主義・資本主義の大きな「うず」の中に巻き込まれていると言えないでしょうか。
 私自身も自由という価値観を何よりも愛し、尊重している者ですが、自由には秩序が必要であり、バランスが大切であります。
 この自由は、公共の利益の為にはある程度制限されたり、秩序は必要と思うのです。

 今、改革、改革と言っていますが、急激な変化はむしろ混乱を招いているように思えます。
 何故なら、日本社会は今は不況と言っていますが、世界の人々から見れば物が溢れて、明治維新や戦後改革と違って、今までの日本の歴史に無い成熟社会に入っています。
 従って、黒か白かのような単純ではなくて、これらをしっかりと分別し、区別して対応しなければならないのです。
 それには、改革すべきもの(可変の原理)と、変えてはいけないもの(不変の原理)と、それに加え、規制を強化するものがあっても良いのではないでしょうか。

 例えば、富士山の自然環境を守る為の入山規制や入山料を頂くとか、それを水資源の涵養の為、水道料金に1円だけ加算して、森林の保全を行う事はどうでしょうか。
 いずれにしても、規制緩和も規制強化も、誰のものなのかが最も大切かと思います。

 “逆も真なり”という言葉がありますが、一方的な政策やマスコミ報道を真正面に受けないで、裏から見たり横から見たり、時には斜めから見たり、色んな角度から観察する事こそ大切だと思います。
このままグローバル経済が進めば、これからますます勝ち組・負け組の光と影が色濃く表れてくるように思われます。
 私は、ゴルフでプロとアマチュァが行う時のハンデの様に、大企業と中小企業が同じ土俵で同じ条件で競争する事には無理があると思います。
 政治は影の部分、弱い立場をどの様に救済するかにあるのですから、地域経済の主体であり、地域社会を支えている商店や中小企業を、どのように個性的に育てて行くか、どのように活性化して行くか、が最も大切であると考えます。
 また資本の豊富な大企業は、地域への貢献、エコロジー的な貢献、ボランティア活動への貢献度を高くしていく必要があると考えます。
 少々論理が飛躍し過ぎましたが、規制緩和が果たして私たちの生活にどの様な影響を与えているか、もう一度真剣に考える時が来た事を考えてみました。